あの夏を、僕はずっと忘れない #アキバナ #七ブ侍

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『秋』と聞いて、あなたが思い浮かべるのは何ですか?

食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。フルーツも美味しい。虫の音が優しく聴こえる。月が美しい。

秋。

私が思い浮かべる『秋』は…。

秋が思い出させるあの赤

『秋』と聞いて僕が思いだすのは、鮮明な『赤』だ。

思い返せば、あれは僕の青春そのものだったように思う。初めて恋を形にできた日であり、そしてそれを失い始めた日でもあった。

汗ばむ陽気。日の光を眩く反射する噴水。聴こえてくるエアロスミス。そして、風が葉を揺らす音。

「約束、忘れちゃった?」

これは僕の恋の物語だ。

高校1年生

僕は高校受験をして私立の高校に進学した。中学2年生までは公立高校に進学するつもりでいたのだけど、中学3年の春に親から勧められて急遽方針を変更。塾も変えて勉強をし、私立高校へと進学した。

進学した私立高校は男子高だった。当たり前だけど、女子はいない。

携帯電話よりもPHSを使っている人が多かった時代だ。ちょうど初のカラー画面の携帯電話が出たころだったと記憶している。

クラスの友達とPHSの番号を交換し、学校帰りにゲームセンターで脱衣麻雀をしたり、カラオケに行ったり、友達の家に行ってゲームをしたり、手持ちのAV(文字通りビデオテープだった)を貸し借りしたり、初めて見る裏モノに興奮と幻滅をしたりと、僕は至極まっとうな高校生活をスタートした。

学校のなかでは当然出会いなどなくて(いや、ある人にはあったのかもしれないけど、それは僕の守備範囲からは大きく外れる)、僕らは学校の外で出会いを求めた。

友達の中学時代の女友達とか、そういったツテをたどって合コンをしたりした。合コンと言ってもお酒なんて飲まず、カラオケ行ったりファーストフード店でおしゃべりしたり、帰りに番号交換したり。だけど、そこから何かに発展することはなかなかなかった。

僕の16歳はこれと言ってなにもなく終わった。

高校2年生

PHSや携帯電話の普及とともに、いわゆる「出会い系」と言われるようなサイトが流行った。「メル友探しの場」みたいなサイトだ。メル友って言葉、今では死語かもしれないね。

出会いを求めた青春真っ盛りの男子高校生な僕らも、やはりそういうところで年の近い女の子とメールをするようになった。

夏美と知り合ったのは、そういうサイトでのことだ。

僕は毎日夏美とメールをした。メールの文字数によって携帯料金が変わってしまうような時代だったので、料金を気にしながら。授業の合間、放課後、友達と遊んでいる最中、布団のなかで、僕らはメールのやりとりを重ねた。

夏美は女子高に通っていて、年は僕よりも1つ上だった。

顔も知らない相手だけれど、僕らは互いに惹かれ合った。限られた文字数のなかでお互いがお互いを少しでも知ろうとし、お互いを少しでも伝えようとした。

本が好き

夏美は本を良く読む子だった。僕も本を読むのが好きだったけれど、高校生になってからはあまり読まなくなっていた。

「どういう本を読むの?」

聞いた僕に夏美が答えた。

「私ね、村上春樹の『ノルウェイの森』がすごく好きなの」

僕はすぐに本屋に行き、『ノルウェイの森』を買った。

特別な1枚

僕は当時、写真部に所属していた。半分遊びのような部活で、年に2回程合宿に行くのと、たまに行う撮影会でモノクロ写真を撮るくらい。文化祭のときにそれを展示し、見てくれた人に人気投票をしてもらう。10月に開催される文化祭が僕ら写真部員の決戦の場だった。

文化祭に先立ち、8月に合宿が行われることになった。僕がメールで夏美にその旨を伝えると、夏美はこう言った。

「何を撮っても、どんなものでも良いから、1枚だけ、私のことを考えて写真を撮ってきてくれる?」

僕は合宿で、朝露に濡れてキラキラと光る葉を捉えた写真を撮った。僕のなかでキラキラと輝く夏美をイメージした。

「撮ってきたよ、1枚」

「ほんとに? 嬉しい。見たいな、その写真…」

「うん、見せたい」

「うん…会いたいな」

夏美は群馬に住んでいて、当時高校生だった僕らにはお金もなく、そう簡単に会える距離ではなかったんだ。

募る想い

僕らはメールを重ねた。重ねたメールの数だけ、想いが募った。重ねたメールの数だけ、僕らは心の扉を開いて、相手の温かく柔らかな部分に触れた。それは、僕の今までの人生の中で経験したことのない感覚だった。

会いたい。

だけど、僕は当時バイトもしておらず、夏美もそれは同じだった。

約束

「お小遣い貯めたから、会いにいく」

8月の終わりに夏美がそうメールをくれた。

「本当に?俺も交通費出すから」

「ありがと。会いたい」

「俺も会いたい。どこで会う?」

「こっこくんがいつも遊んだりしているところがいいな」

学校帰りにいつも遊んでいた新宿で、僕らは会う約束をした。

「あのね。お願いがあるんだけど」

「また?笑」

「いや?」

「嫌なわけない。何?」

「もし私のこと好きだと思ってくれているなら…」

「うん」

「会ったとき、キスしてくれる?」

星のめぐり合う日

9月の中頃に、僕らは初めて会った。

「はじめまして」

初めて会う夏美は、僕がイメージしていたとおりの人だった。

「イメージどおりだった」

僕を見て夏美もまたそう言った。

僕らは新宿を歩き、ファーストフード店に入り、ジュースを飲みながら話した。

夏美を思って撮った写真を現像して持ってきていた。それを手渡すと、夏美はとても喜んだ。

「すごく嬉しい。なんかね、これを撮ってるとき、こっこくんは私のことだけを考えてくれていたんだ、って思うと、すごくドキドキする」

胸が痛いくらいに締め付けられた。誰かを想いながら写真を撮るなんて初めての経験だった。うまく撮れたか、気に入ってくれるか、わからなくて少し不安だったけど、夏美の笑顔がそれを吹き飛ばしてくれた。

ちょっと歩こう、という夏美の要望で、僕らは店を出て、原宿方面へ足を向けた。

僕はありったけの勇気を振り絞り、夏美の手をつないだ。夏美は少し驚いて、少し恥ずかしそうにして、僕の手を握り返してくれた。夏美の手は小さく、少し汗ばんでいた。

雲のほとんどない、暑い日だった。僕らは汗をかきながら、だけど手を離さずに、いろいろな話をしながら歩いた。

夏美は真っ赤なヒールを履いていた。すごく鮮明な赤だ。ヒールで歩きにくくないかと聞くと、いつもこれで歩き回ってるから大丈夫と答えた。赤似合うねと言うと、赤大好きなのと答えた。

コツコツと、夏美のヒールが鳴った。たくさん話して、気付けば原宿駅まできていた。結構な距離を歩いた。僕らはそのまま原宿駅を通り過ぎ、代々木公園に入った。

木陰に入ると暑さは少し和らいだ。先ほどまでは感じなかった柔らかな風が汗を少しだけ冷やした。

噴水のそばにあったベンチに腰掛けた。日の光を反射して、水がキラキラと輝きながら舞う。空の青。葉の緑。ヒールの赤。

近くでギターの練習をしている人がいた。聴こえてきたメロディに夏美が反応する。

「あ、エアロスミスだ。イートザリッチ。これすきなの」

僕は洋楽をほとんど聴かなかったけど、夏美が好きというその特徴的なイントロはやたらと鮮明に頭に残った。

ベンチでもいろいろな話をした。メールでは聞けなかったこと、伝えられなかったことを。夏美の声が、夏美の仕草が、夏美の笑顔が、メールの行間に優しく流れ込んで、僕らはメール以上にスムーズに言葉を交わした。

ふと会話が途切れた。

イートザリッチを弾いていた人はもういなくなっていた。噴水も止まっていて、風が葉を揺らす音が聞こえた。少しだけ乾いた音だった。

すごく小さな声で夏美が何かを言った。

「え?なに?」

夏美は僕をちらりと見て、少し俯いた。

「…約束、忘れちゃった?」

忘れるもんか。忘れるもんか。僕がどれほど君に会いたいと思っていたと思う?どれだけこうして君の声を聞きたいと思っていたと思う?どれだけ君の笑顔を見たいと思っていたか。どれだけ君のことを想っていたと思う。

僕らはキスをした。僕にとって人生初めてのキスで、夏美にとっても人生初めてのキスだった。

たぶんとてもぎこちないキスだった。手をどこに置いていいかわからず、悩んだ挙句、僕はベンチの背もたれ部分をつかんで身体のバランスを取っていた。

時間にしたらほんの数秒だったと思う。夏美の唇は信じられないくらい柔らかくて、薄く塗られたリップクリームの香りがした。

唇が離れると、夏美はやはりうつむきながら言った。

「ありがと。会いたかったよ。」

「俺も会いたかった。」

夏美は顔を上げ笑顔を作ると、臆病な僕の腕を取り、自分の身体を腕の中に入れた。ふわりとシャンプーの香りがした。

「好きだよ、なつ」

「どのくらい好き?」

「春の熊くらい好きだよ」

僕がこういうと、夏美は僕の顔を見て、泣きそうな笑顔になった。

「読んでくれたんだ」

「もちろん」

「ねえ、こっこくん」

「なに?」

「私も大好き」

僕の中に夏美が溢れた。

記憶に残り続ける赤

その日を最後に、僕らは2度と会うことはなかった。お互いを好き合いながら、だけれど高校生の僕らにとって物理的な距離は恐ろしく高い障壁だった。

「苦しくて、このままだとダメになっちゃう」

電話の先で夏美は泣き、その言葉に僕も泣いた。

僕はどう足掻いても子どもだった。僕にはなんの力もなかった。無力そのものだった。

僕らは別れた。別れたという言葉が果たして正しいのかわからない。僕らは付き合っていたのだろうか?それもよくわからない。

だけど、僕らは、決して長い時間ではなかったけれど、お互いを知ろうと必死になり、そうして知ったお互いを好き合った。あの日、僕らはそれを目に見える形に作り変え、それを共に確かめ合った。

9月がくると、僕は今でも思い出す。

アスファルトを鳴らす夏美の赤いヒールを。
光を反射する水のように眩しい夏美の笑顔を。
聴こえてきたエアロスミスを好きと言った夏美の声を。
葉の音にかき消された夏美の言葉を。

夏美との約束と、そしてそれを果たした瞬間を。

あの夏のような日を。あの夏のような人を。あの夏のような想いを。

僕はきっと死ぬまで忘れない。

そう。

これは、僕の恋の物語だ。

七ブ侍新シーズンスタートです!

はい!いかがでしたか?
『イロトリドリ』管理人のこっこ(@cocco00)です。

曜日代わりでブログ記事を毎日お届けする『七人のブログ侍』。本日よりメンバーの一部が入れ替わり、新シーズンがスタートしました!僭越ながらトップバッターを務めさせていただきました。

七人のブログ侍とは

七ブ侍ロゴ

七ブ侍とはどういう企画か。細かい説明はノリハナさんの記事にお任せします。

[n❁h]2Y2ndシーズン始動!今シーズンは季イチ侍も加わって計14名で盛り上げます。 #七ブ侍 #SP3 | NORY*NOTE
  MENU 走る。読む。想う。創る。考える。…ツナガルブログ『NORY*NOTE』へようこそ。  2015/09/28  こんにちは。ノリハナ(@infnity_87_)です。所属メンバーが日替わり…

簡単に説明すると、曜日ごとに7人のブロガーが記事をお届けする企画。これが今は少し形を変えて、月~土が固定メンバー、日曜日は変動メンバーが記事をお届けすることになります。

企画としては2年目の2ndシーズンを迎えた格好です。

イロトリドリを読んでいただいている読者様に、「あ、こんなブログもあるんだ!」という新たな出会いをご提供できたらいいなと思っています。もちろん、メンバーのブログからイロトリドリと出会ってくれる方がたくさんいたら更に言うことありませんw

ブロガー連動企画!秋をテーマに記事を書こう!

新シーズンのスタートと同時に、ブロガーの皆さまや読者の皆様と連動する企画がスタートしました。

あなたにとって秋とはどんな季節ですか?
「秋」をテーマにみんなで記事を書こうよ!という企画です。

タイトルに「#アキバナ」というタグを付けて、みなさんの『秋』にまつわるお話を、ぜひ記事にしてみてください!

募集期間は10月末まで!秋に関する記事であれば何でもOKです!

私の『秋』について

私の秋についてのこの記事、たぶんイロトリドリ史上一番本気で書いた文章です。『秋』がテーマなのにタイトルに「夏」を使ったのは、おわかりのとおり、季節としての夏ではなく、夏美ちゃんの名前を意味します。

会話の内容については(もう14年くらい前の話なので)もちろん一字一句再現できているわけではありませんが、100%実話です。クソ青春してました、ええ。

夏美ちゃんに受けた影響は計り知れなくて、私はあのメールの日から村上春樹を読み始め、大学では『ノルウェイの森』をテーマにした論文を書きました。ちなみに「春の熊」のくだりは『ノルウェイの森』のなかの一節です。

エアロスミスもあの日から聴き始め、今でもiTunesには『Eat The Rich』が入っています。あのイントロを聴くたびに夏美ちゃんを思い出します。

夏美ちゃんから言われ、夏美ちゃんを想って撮った朝露の写真は、その年の文化祭の人気投票で1位を獲得しました。自慢じゃないですが、私は在学3年間の文化祭すべてで人気投票1位を獲得しました。前言撤回、自慢ですw

私はその冬に、合コンで彼女を作り、その彼女と初体験をし、その彼女と丸3年付き合いました。別れてからもその彼女を引きずりまくり、大学時代は実はほとんど彼女を作ることなく終えました。今思えばもっと楽しんでおくべきだったw

自分で言うのもアレだけど、なんて純粋な男なんでしょう。これがこっこです。よろしくね!

今シーズンの侍としての『イロトリドリ』

さて、余談は置いておいて。

前シーズンの『七人のブログ侍』では、私はノリハナさんと共同担当で、隔週木曜日に万年筆に関する記事をお届けして参りました。

今シーズンからは月曜日担当のレギュラーメンバーとして毎週記事をお届けさせていただくことになりました!わーい!がんばりますよー!

七ブ侍では特に「こういう記事じゃなきゃダメ」という縛りは一切ありません。

前シーズンは自身で「万年筆をテーマにしよう」と目標を設定しました。やってみて思ったのは「隔週だからこそでテーマを絞ることができたな」ということ。これが毎週となるとテーマを絞るのは結構厳しいように感じました。

ということで今シーズンについてはテーマ縛りは設けない方針です。ただ、できるだけ文房具をテーマにしたいなと思っています。当ブログのメインテーマのひとつですし、読者の方が当ブログに持っているイメージも「文房具」が強いようです。

トリまとめ

超長文の記事に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

ということで、明日火曜日の『七人のブログ侍』は、侍のオシャレ担当ひろむくん(@mwwx)のむーろぐです!

七ブ侍の記事はTwitterタグ『#七ブ侍』をチェックしてみてくださいね♪

それでは。こっこ(@cocco00)でした。

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ジブン手帳2018予約開始!

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話題のジブン手帳2018の予約販売がスタートしています!特にBizのminiは人気が予想されます。お買い漏れのないように!

5 件のコメント

  • […] @cocco さんの記事を読んで、ちょっと私も秋に関するエピソードを書いてみたくなって書きました。 あの夏を、僕はずっと忘れない #アキバナ #七ブ侍 | イロトリドリ改めてあのときのことを思い出してみると、思っていたほど、心が締め付けられるようなことはありませんでした。 […]

  • […] あの夏を、僕はずっと忘れない #アキバナ #七ブ侍 | イロトリドリ 『秋』と聞いて、あなたが思い浮かべるのは何ですか?食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。フルーツも美味しい。虫の音が優しく聴こえる。月が美しい。秋。私が思い浮かべる『秋』は…。『秋』と聞いて僕が思いだすの… […]

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