サラリーマン讃歌 #七ブ侍

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けたたましい音で叫ぶ目覚まし時計を叩くように止めるが、ずっしりとした疲れが身体の後ろ側を中心に相変わらずぶら下がっている。

「ねえ、まだいいじゃない」

枕が発するその甘美な誘惑はあまりにも魅力的ではあるが、僕は持ち得るすべての力を行使してそれを拒絶する。

洗面室の鏡には目の開いていない顔が映る。歯を磨き、冷たい水で顔を濡らすと少し目が大きくなった。

跳ねた寝癖を直そうとして、その跳ねた毛の中に白髪を見つけて悲しくなる。もうそうそう若くもないのだと、身体が訴えてくる。

うるさい。うるさい。

髪を濡らして、ドライヤーで乱暴に乾かし、ワックスをつけて髪型を整える。髪型を整えると、なんだか目が覚めた気がするんだ。



photo credit: Frio. via photopin (license)

外は雨だ。駅までの道を歩く。傘をさしていても裾が濡れ、バッグが濡れる。

駅に着いて傘を畳んで、周りに注意しながら水滴を払う。

雨のせいでいつもよりさらに混んだ電車に揺られて職場へ向かう。座席に座る人の大半は寝ていて、立っている人の大半はスマートフォンを見ている。

僕もまたスマートフォンでニュース記事なんかをチェックする。それを終えると、バッグから文庫本を取り出して読む。

駅で停車するたびに人が乗り込んでくる。「車内中ほどまでお進みください」という車掌のアナウンスを大半の人が無視するせいで、ドア付近がやたらと混む。僕は忠実な柴犬のように車内中ほどへ移動する。

隣に立った女性はスマートフォンの画面を必死になぞり、積まれたキャラクターを消している。腕にかかった傘から水滴が滴り落ち、僕の靴を濡らす。彼女はそれに気付かず、夢中で消す。消す。濡らす。消す。「お前も濡らしてやろうか」という下世話な台詞を心の中でツイートする。



photo credit: neourban hipster office desktop via photopin (license)

職場では黙々と仕事をする。

僕は人見知りだけれど、仕事のときはスイッチが入って、スラスラと言葉が出てくる。「話さなきゃ」と思うと話せないんだけど、「話すべきこと」はしっかり話せる。不思議なものだ。

外出の時間、電車に揺られながらブログを書く。以前よりも外出が減ったので、あえて座らずに立つように心がけている。「座らない」という前提に立つと、目の前で繰り広げられる椅子取りゲームに辟易とするんだ。もっと別のことに必死になればいいのに。

外出から事務所に戻る。「おかえりなさい」職場の仲間が声をかけてくれる。『帰るべき場所』のひとつがここにあるんだ、と思う言葉だ。おかえりなさい。

僕は僕が勤めるこの会社が好きだ。他の会社のことは知らないけれど、すごく人が優しい。ただ、思うんだけど、愛社精神とサービス残業はイコールじゃない。ましてや、社畜なんて論外だ。

必要な残業はするけれど、無駄にだらだらしたくない。タバコを吸わない僕は、黙々と仕事をする。



photo credit: The doors are closing via photopin (license)

仕事を終えて事務所を出る。

くたびれた顔のサラリーマンやOLが電車に揺られる。僕もその中の1人だ。肩と腰回りに疲れがどどんと居座っている。

ぐだっと丸まる身体を意識的に伸ばしてみると、少しだけ疲れが霧散するような心持ちがする。

窓の外の多摩川を見て、ふと高校時代を思い出す。学ランに身を包んだ僕は、通学電車のなかで思ったんだ。

「一様にくたびれたスーツに身を包んで、取り憑かれたように日経新聞を読む、くだらないサラリーマンにはなるまい」と。

10年以上前の自分の言葉に、僕はこう言いたい。

「お前は何もわかっていないな」って。



photo credit: Empty Vessels Make the Loudest Sound via photopin (license)

サラリーマンは誇るべき職業だ。

なるほど、僕らサラリーマンは企業のなかのピースのひとつでしかなく、僕1人が消えたところで当たり前に会社も社会も回る。

しかし、だからどうだというのだ。

僕は、僕が消えることでにっちもさっちもいかなくなるような会社なんてむしろ嫌だ。

駒でいい。僕は企業が抱えた兵士の1人だ。それぞれがそれぞれの武器を持ち、その武器を駆使して戦う兵士だ。

たまに惨敗してボロボロになることだってある。戦いに疲弊して、帰路の電車で寝てしまうことだってある。重たい荷物を抱えることによってスーツがくたびれてしまうことだってある。

だけど、僕らは毎日必死に戦っている。生きるために。あるいは愛する人のために。

軽々しく「消耗」なんて言葉で片付けられるようなことじゃない。

一騎当千の武将でなくていい。僕ら一人一人は歩兵でいい。歩兵が集まった部隊は、決して弱くない。僕らは戦いに一喜一憂しながら、毎日を生きるんだ。


駅に着き、ドアのコンプレッサーが深いため息とともに人を吐き出す。外の風が頬に当たる。

家までの道を歩く。

ふと視線を上げた。雨はやんでいて、雲の隙間から半分くらいの月が浮かんでいるのが見えた。

「おつかれさま。今日も頑張りましたね」

月が優しく語りかけてくる。

「ありがとう。そちらこそ、今日もたくさんの人たちの祈りを聞いているんだろう。いつもおつかれさま」

月は優しく微笑んで、僕の言葉に応える。

うん。今日も1日頑張った。また明日も頑張ろうぜ。

こうしてサラリーマンの1日が終わるんだ。

サラリーマン万歳

久しぶりにちょっと小説風。お楽しみいただけましたでしょうか? こっこ(@cocco00)です。

サラリーマン讃歌。

同じような日々の繰り返しかもしれないけれど、それをしっかりこなすサラリーマンは、誇るべき職業である。と思うんだ。

汗だくになって重たいバッグを抱えながら電車に乗ってるサラリーマンはダサイ?いやいや、カッコイイだろ。

誇ろうぜ!

七人のブログ侍

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この記事は曜日ごとに違うブロガーが記事をお届けする『七人のブログ侍』の企画記事としてもお届けしています。私は月曜日担当!

明日火曜日の『七人のブログ侍』は、おしゃれ番長ひろむくん(@mwwx)のむーろぐです!お楽しみに!

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