裏路地にある小さいけれどちょっと気になる雑貨屋

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由紀は時間を持て余していた。
デートの約束をしていた男が「急な仕事でどうしても抜けられないんだ」と連絡してきたのが30分前のこと。

しつこく誘ってくるし、美味しいものを食べさせてくれると言うから仕方なくOKしたのに、それをドタキャン。
「あの男はもうないわね」
由紀は毒付き、足元に転がったコカコーラの空き缶をヒールのつま先で小突いた。

待ち合わせ場所として指定された馴染みのない駅は、意外にも多くの人が行き来していた。駅前のバスロータリーから伸びる大通りが商店街になっていて、大型の家電店やショッピングモールなんかも立ち並んでいる。

「このまま帰っても、ね」
由紀は少し街を歩いてみることにした。

アイキャッチ

***

由紀は大通りを歩き、気になったお店は中まで入ってディスプレイされた商品をチェックした。様々な商店が並んでいて、買う気のなかったものまで欲しくなってくる。

商店街は長く伸びていて、全てを見切ることは難しそうだった。疲れた由紀は、少し足を休めようとカフェを探すことにした。

大通りを見回してみるが、それっぽいお店は見当たらない。

「こんな通りなんだし1件くらいあっても良さそうなものだけど」

由紀は大通りを外れ、1本中の通りに入ってみる。
そこにも、大通りの商店ほど派手ではないけれど、センスの良さそうなお店が立ち並んでいた。

「私、こういう感じの通りのほうが好きかも」

カフェを探しつつ、夕暮れ時の少し薄暗い通りを歩いた。日中はまだ暑いけれど、日が傾くと随分と気温が下がるようになってきた。もう夏も終わろうとしている。

ふと、一見するとカフェのような店構えの建物を見つけた。2階建ての木造住宅で、壁の木はアンティーク調に歳を取り、なんとも言えない暖かな雰囲気があった。
ドアの横にニワトリを象った看板がある。

「イロトリドリ…。これが店名なのかな?」

由紀はそっとドアを押す。
キュッ、っと控えめな軋みを立てて開いたドアの向こうから、美味しそうなコーヒーの香りが漂った。

***

店内に置かれた様々なものに、由紀は少し驚いた。

「なに、ここ。文房具屋さん…? ううん、雑貨屋さん?」

腰ほどの高さのテーブルがいくつも並び、そのうえには文房具を中心に、雑貨や小説など様々なものが置かれている。スマートフォンのケースも置いてあれば、家電もある。

雑多な商品にも驚いたが、なにより由紀が驚いたのは、置かれている商品のひとつひとつに手書きのPOPが備え付けられていることだ。

決して上手な字ではない。商品によってはA4サイズの紙に紹介文が書かれていて、もはやPOPというより説明書に近いようなものもある。けれど、POPのひとつひとつに込められた熱意に惹かれ、つい何が書かれているのか読んでみたくなる。

面白いことに、店内のいたるところに小さな腰掛けが置かれている。

「座って読んでいいよ、ってことなのかしら…」

由紀は目に付いたPOPを手に取り、腰掛けに座ってそれを読んだ。

POPはとても丁寧で、わかりやすく、その商品を説明していた。いや、説明だけじゃない。こういう使い方をすると便利だよ、という提案まで書かれている。

「いらっしゃいませ」
急に頭上から聞こえた声に、由紀は小さな悲鳴をあげた。

「ごめんなさい、驚かせちゃいましたね」
由紀が顔を上げると、スーツに身を包んだ男性が立っていた。

「あ、いえ、ごめんなさい、全然気が付かなくて」
慌てて立ち上がろうとする由紀を彼は制した。
「コーヒー、苦手じゃないですか?」
彼は後ろを向いて言う。
「あ、はい」
振り返った彼の手には小ぶりなマグに注がれたコーヒーだった。

「これ、僕の趣味なんで。お代とかいりませんから、良かったら飲んで、読んで、ゆっくりしていってくださ…」
由紀を見て言う彼の言葉が尻切れになる。

「あの…もしかして…由紀ちゃん?」

「え?」

由紀は再び驚いて彼を見る。なんで名前を知ってるの? …あれ。

「え…もしかして…こっこくん?」

***


photo credit: [hang time] via photopin (license)

由紀とこっこは小学校、そして中学校が同じだった。由紀は中学3年の夏に親の仕事の都合で海外に引っ越していってしまい、一緒に卒業をすることはできなかった。

小学5年生のときに体育の授業で行ったバスケットボールで由紀とこっこはチームメンバーとなり、互いにバスケットボールの魅力にとりつかれた。

放課後、2人で校庭のバスケットゴールを使ってフリースローの練習をした。

「5本勝負で負けたほうが勝ったほうに500円ね!」
由紀が勝負を挑み、そして負けた。由紀は悔しくて、再戦をせがみ、再戦では由紀が勝った。

「これでチャラだな」
「ダメだよ。明日500円持ってきて。私も持ってくるから」
「なにそれ、意味あるの?」
「意味あるの!」

***


photo credit: Homemade macchiato via photopin (license)

「こっこくん、お店やってるんだね」
「たいしたお店じゃないけどね」

「すごいね、このPOP全部書いたの?」
「うん」
「わかりやすくていいね」
そういうと、こっこは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。わかりやすく伝えることだけは他の店に負けたくないんだ」
「なんか、こっこくんの人となりが伝わってくる気がするよ。顔が見えるというか」
「それ、すごく嬉しい」

「置いてあるものも素敵なものが多い」
「だろ?俺が好きなものばっかり置いてる」
「こんな裏通りじゃなくて表通りにお店出したらいいのに」
「裏路地にあるけどちょっと気になる雑貨屋さんを目指してるんだよ、俺は」

「昔からそうだったよね」
「そうだったって?」
「主役じゃなく、縁の下の力持ちみたいは存在」
「それでいいんだよ」
「うん、それがいいよ、こっこくんは」

「ねぇ、いっぱい褒めてあげたからなんか奢ってよ」
「すでにコーヒー奢ってる」
「ちぇ」
「言っとくけど、それめちゃくちゃ良い豆使って淹れてるんだぞ」
「あれでしょ。良い女が入ってきたぞ、と思って淹れたんでしょ。下心でしょ。わあ、いやらしい人」
「よし、奢りはやめよう。500円!」
「ひどい、男に二言はないんじゃないの?」
「うるさい」

***

1時間以上話し込み、最後にもう一度店内を見てまわった由紀は、付箋紙だけ買って帰ることにした。

「じゃあ、これだけお願いします。長々粘った結果、これだけってごめんね」
「気に入って買ってくれるならそれでいいんだ。500円ね」
「はい。じゃあ1000円からで」

「…ちょっと待ってて。釣り銭切らした」
と、レジを操作していたこっこが、レジの後ろ側にあった棚をゴソゴソとしだした。

「あ、500円玉なければ100円玉でもいいよ?」
「いや、あるんだ。ここに…あ、あった」

「はい。これ」
紙袋に入れた商品を手渡される。
「ありがとう」
「それと、お釣り500円」
レシートと共にお釣りを受け取る。

「あれ。珍しいね、こっちの500円玉……。え…」

「来てくれてありがとう」

「こっこくん…。これ、もしかして…」

「どうかな」

由紀の手に握られていたのは今ではほとんど見かけることのなくなった銀色の旧硬貨だった。

トリまとめ

はい。
どうも。こっこ(@cocco00)です。

いかがでしたか?
私が今考える「イロトリドリはこうありたい」というイメージを小説風にしてみました。

実は最初は以前やったみたいにインタビュー形式にしようかとも思って、半分くらいまで書いていました。

「僕はラーメン春友流の魚粉のような記事を書けたらいいなと思うんです」 |
司会-本日はブログ開設まもなく半年を迎えたイロトリドリのこっこ(@cocco00)さんのお話をお伺いしたいと思います。こっこ(@cocco00)さん、よろしくお願いします。こっこ(以下「鶏」)-よろし…

でも、同じインタビュー形式じゃつまらないなと途中で思い直し、この形式で書き直してみました。
『裏路地にある小さいけれどちょっと気になる雑貨屋さん』というキーワードが頭にあって、そこから話を膨らませました。

ちなみに主人公(?)の由紀は私が小・中学生の頃好きだった同級生。名前も漢字もそのままですw

子ども時代の500円玉交換の話も、本当にあった出来事。フリースロー対決は創作で、本当は何で勝負したのかは覚えてないんだよね。当時流行った給食の早食いとか、そういうくだらないことだったかも。

ラストの旧硬貨のくだり、少しわかりづらかったかな?

大通りでたくさんの人が訪れる場所じゃなくても別にいいなって思います。
そうじゃなく、裏路地で本当に良いものだけを扱って、リピーターがいてくれて、店員とお客さんの距離が近い。ひとりひとりのお客さんを大切にし、押し付けない。

あいた時間で「ちょっと寄ってみようかな」と思ってもらえるような『イロトリドリ』を目指したいと思っています。

飴色のドアを開けたら、ホラ、今日も美味しいコーヒー淹れて待っていますよ。

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